
マキシマム・テクノロジーでは、自動車業界のお客様が多い中ではありますが、医療機器から産業機器に至るまで、多様な製品が抱える「熱」に関する課題に対し、最適なヒーターソリューションを提供することを目指しています。
日々、世の中にどんな課題があるのか気にしながら仕事をしているのですが、先日、トヨタ社ハイエースの寒冷地仕様について話題に上がりました。
どんな話題かというと、ハイエースの寒冷地仕様にはバッテリーが2個積まれている、という話です。
バッテリーは、温度が低いと性能が低下していきます。
そのような課題を解決するのに、弊社よりPTCヒーターをご提案することがあります。
寒冷地で性能低下するバッテリーを「温めて解決」しようという考え方です。
ハイエースは、温めて解決、ではなくて、性能低下するなら2個積んでおこう、という考えです。
大型車などではバッテリー個数が2個というのも普通なので、合理的な解決方法なんですが、ふと
「バッテリーの『数』で解決するのではなく、PTCヒーターによる『保温』というアプローチをとれば、コストや全体的な効率性において、よりスマートに対応できるのでは……?」
と考えました。
今回は、この車載バッテリーにおける寒冷地対策という具体的な事例をスタート地点に、寒冷地におけるバッテリー低温対策における新しい設計思想の可能性について、技術的観点から考えてみたいと思います。
寒冷地におけるバッテリー性能低下と従来の解決策
まず、寒冷地環境がバッテリーに与える物理的な影響と、ハイエースに見られる「バッテリー2個搭載(寒冷地仕様)」という設計思想の背景について、技術的にあまり詳しくない方向けに整理します。
低温による放電容量・出力の低下
自動車に搭載される鉛蓄電池や、医療機器などで用いられるリチウムイオンバッテリーは、内部での化学反応を通じて電気を充放電しています。しかし、氷点下のような極低温環境下においては、この化学反応の活性が急激に低下します。
スマートフォンが、冬の屋外で急にバッテリー残量が減ったり、動作が不安定になったりする現象も、これと同じ根本原因によるものです。
強化されたスターターモーターへの対応
ハイエースのような大型でタフな車両、特にディーゼル車においては、極寒の環境でも確実にエンジンを始動させるため、寒冷地仕様では標準仕様よりもパワーのある「スターターモーター」が採用されることが一般的です。
凍てつく冬の朝、カチカチに凍りついたエンジンオイルの抵抗を押し切り、エンジンを力強く回すためには、標準よりも多くの「瞬発力(大きな電流)」が、この強力なスターターモーターに供給される必要があります。
しかし、肝心のバッテリーは、低温特性により性能が低下しています。
「必要な電力(出力)は増大しているのに、バッテリー本来の電力(出力)は減少している」
この、性能低下と要求電力の間に生じる「矛盾」を解決するために、寒冷地仕様のハイエースは、バッテリーをあらかじめ「2個並列」に搭載しています。
弱ったバッテリーであっても、2個が力を合わせれば、強化スターターモーターを確実に回すのに十分な電力を確保できる、という非常に力技ではありますが、確実性の高い「タフな解決策」なのです。
ヒーターによる「保温」というアプローチ
バッテリーが2個搭載されているハイエースの寒冷地仕様について 、自動車ではそれが当たり前と私も思っていますが、
「バッテリーが弱る根本原因である『低温』そのものを、ヒーターによって解決すれば、1個で済むのではないか?」
とも考えました。
すなわち、2個目のバッテリーを搭載するスペースやコスト、重量の代わりに、バッテリーを「温める(保温する)ヒーターシステム」をハードウェア設計に組み込めば、1個のバッテリーを、常に本来の性能が発揮できる「適温(例えば20℃前後)」に保てるのではないか、という考えです。
PTCヒーターの自己温度制御による安全性と保温
バッテリーを温めるというアプローチにおいて、最重要課題となるのは「安全性」です。ニクロム線ヒーターのように際限なく温度が上がり続けるタイプは、医療機器や車載用途としてはリスクが高く、オーバーヒートによるバッテリー劣化や発火を防ぐための厳密な温度管理が必須となります。
PTCヒーターは、その素材自体が「温度が上がると自分自身で電流を抑える」という「自己温度制御機能」を持っています。
この機能を活用すれば、
「安全性」:ヒーター自身が自動で設定温度(例えば、バッテリーに適した30℃)を保ち、オーバーヒートのリスクが極めて低く、非常に安全です。
「省エネ性」:バッテリーが冷え切っている時(エンジン始動前)は最大出力で温め、温まってくると自動で出力を絞ります。無駄な電力消費を最小限に抑えます。
「形状の自由度」:数ミリの厚さの薄型フィルム状なので、バッテリーパックのわずかな隙間に組み込んだり、複雑な曲面周辺に巻き付けたりすることができます。
という価値を提供できるということです。
バッテリー2個とヒーターによる保温とどっちがお得か?
おそらくバッテリー2個でもヒーターによる保温でも、どちらであっても寒冷地対策にはなるのだと考えます。
能力的にはどちらの方法でも必要な性能を満たすということですね。
では、どちらの方式を選ぶ方がよいのか?
特別な事情や制約がない限り、「コスト」の面で選択されるということになります。
というわけで、私の個人的な推測も含みますが、どちらがお得か、考えてみました。
イニシャルコスト(購入時・設置時)
これは、おそらく「バッテリー2個搭載(従来の対策)」の方が安くなる傾向があります。
車載用バッテリーヒーターシステム(特に断熱材、制御回路、設置工賃)のイニシャルコストが、2個目のバッテリーの購入価格を上回る可能性があるため、車という大量生産品においては安く抑えられる傾向があるからです。
総所有コスト(LCC:ライフサイクルコスト・燃費)
しかし、車を長く運用する(例えば8年間、交換1回)という視点では、「PTCヒーター案」が有利になる可能性があるのではないかと考えています。
理由としては、3つあります。
バッテリー交換費用が半分
寒冷地仕様で2個搭載されたバッテリーの交換は、必ず「2個同時に」行う必要があります。費用は2倍です。
しかし、ヒーター案ならバッテリーは「1個」です。交換費用は半分で済みます。
「2回目以降の交換費用の削減分」で、ヒーターのイニシャルコストを回収できる可能性があるのではないか、と考えられます。
軽量化による燃費改善
ハイエースのような大型バッテリーは約15〜20kgあります。これを1個減らせれば、車全体でかなりの軽量化になります。
8年間走り続けると、その燃費改善効果は無視できないコスト削減になるのではないでしょうか。
バッテリー寿命の延長
PTCヒーターでバッテリーを低温から守ることは、低温特性による化学的な劣化を防ぐことにも繋がります。
結果として、「低温劣化」による早期交換リスクを減らし、バッテリー自体の寿命を延ばせる可能性もあります。
正確なデータに基づいた考察ではありませんが、もしバッテリー個数で寒冷地対策を行おうと考えることがあれば、ヒーター活用も考えるのもよいのではないかと思います。
結論:もしかしたら、ヒーター保温が寒冷地でのスタンダードになるかも?
本日は、ハイエースのバッテリー2個並列の話から、PTCヒーターを使った「保温対策」の思いつきについて、多少技術的に考えてみました。
現状では、ハイエースのバッテリー2個という仕様は、そもそも強力なスターターモーターに合わせているということもあり、寒冷地以外でも正常な動作をするためのものなので、(コストは度外視で)ヒーターに置き換えてすべてうまくいくということでもありません。
もちろん生産ラインなど工場での対応も必要になるので、ヒーター案の方がトータルコストが安い!となってもすぐに変えられるものでもありませんしね。
弊社のようなお客様の要望に合わせて、カスタマイズ製品を作る側からすると、新しいハードウェア設計において、特に医療機器や産業用ドローンのように「軽量化」や「スマートな管理」が求められる分野では、バッテリーを数ではなく、「温める」ことで本来の性能を発揮させる、という視点が役に立つと考えています。
もし、バッテリーなど寒冷地対策でお困りでしたら、お気軽にご連絡ください。
最適な解決策が見つかるよう、あらゆる視点からサポートさせていただきます。

